
生理の前や生理中に、頭痛が起こる人は多いですよね。生理だけではなく、妊娠や出産、更年期など、女性の頭痛には、女性ホルモンが大きく関わっているようです。そこで、頭痛外来を開設し、多くの女性の頭痛診療に取り組まれている山王クリニック院長 山王直子先生に、女性ホルモンと頭痛の関係をお聞きしました。

生理のときの頭痛には、片頭痛が多いことがわかっています。若い女性の5人に1人が片頭痛に悩んでいますが、そのうち60%の頭痛は生理と関係しているといわれています。これは、女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の変動が、片頭痛に大きく関わっていると考えられているからです。エストロゲンとプロゲステロンは、生理周期で大きく変動します(図1)。特に血中のエストロゲンの分泌が急減すると、セロトニンという脳内物質が急激に減って血管を拡張し、片頭痛が起こるとされています。このように、女性の片頭痛は女性ホルモンに影響されやすいため、生理の1日目前後に多く、たとえばエストロゲンの変動の少ない妊娠中には片頭痛は少なくなり、閉経後は片頭痛が治まる人も多いのです。片頭痛が始まる時期、あるいは頻度が増える時期も、生理が始まる思春期の11〜13歳ごろからということが多く、初潮の前後や初潮が始まる2〜3か月前からという人も多いようです。

卵胞ホルモン(エストロゲン)の分泌は排卵を前にピークになり、排卵後は、黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が増えます。エストロゲンは生理前にも急激に減少します。特にエストロゲンが急激に減少するとき、片頭痛が起こりやすくなります。

さて、片頭痛は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の急激な減少があるときに起こりやすいので、生理のときだけ起こる人も、生理と排卵のときに起こる人もいます。不定期に起こり、生理時に特にひどいという場合もあります。ただし片頭痛の起こり方や、その程度や頻度が大幅に変動する人も多く、毎月同じパターンとは限りません。
また、ふだんから片頭痛が起こりやすい人でも、生理のときの頭痛は特に治りにくく、市販の鎮痛薬は効きにくいことが多いようです。片頭痛を「生理痛」と勘違いして、鎮痛薬でガマンしたり、あきらめたりしている人も多いようですが、片頭痛にはトリプタンがよく効くので、病院やクリニックを受診してトリプタン製剤を処方してもらうことをお勧めします。腹痛も伴う人は、鎮痛薬とトリプタンを併用しても構いません。個人差がありますが、予防薬(カルシウム拮抗薬など)をあらかじめ飲んでおくと効く場合があります。生理時は頭痛や腹痛で動きにくいので、つらくない時期に病院を受診して、自分に合う薬を見つけておくとよいでしょう。

ところで、仕事などでストレスをかかえる現代の女性は、女性ホルモンのバランスが崩れやすく生理不順になる人も多いようです。生理不順になると、片頭痛もいつ起こるかわからず、不安だからと鎮痛薬をどんどん飲んで薬物乱用頭痛になる場合があります。排卵時と生理時の片頭痛が連続し、ダラダラと頭痛が続き、対処法が難しくなり、薬の量が増える人もいます。生理不順になった場合は、かなりストレスがかかっていると考えて、産婦人科などに早めに相談して体調を整えましょう。
ストレス自体が片頭痛の誘因になることもありますので、日常生活の中では、特に片頭痛の起こりやすい生理の前や生理中にストレスがかからないよう、無理をしないことが大切です。睡眠不足、寝すぎ、過労、空腹(低血糖)、人混み、光や音などを避け、規則正しい生活を心がけて、片頭痛を予防するようにしましょう。

妊娠中期と後期の6か月は、女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の分泌量が高めで安定するため、一般には片頭痛は起こりにくくなりますが、ときには片頭痛が起こる場合もあります。妊娠中はなるべく薬を服用しないほうがよいので、ストレスや睡眠不足を避け、もし片頭痛が起こってしまった場合には、こめかみを冷やす、早めに横になる、光や騒音をシャットアウトするなど、まず薬以外の方法を試してみましょう。それでも我慢できないほどの痛みの場合には、妊娠中も比較的安全と言われるアセトアミノフェンを飲みますが、それも効かず、片頭痛が母体へ影響することが懸念される場合には、医師と十分に相談した上でトリプタン製剤を少量飲むようにします。
片頭痛でトリプタンを飲んだあとに妊娠がわかった場合、トリプタン製剤のうち、スマトリプタンに関しては妊娠第1期(妊娠13週まで)に服用していても、異常分娩、死産、先天欠損症の発生率は未服用と変わらないとのデータがあります。妊娠を希望している人や、妊娠の可能性のある人も、妊娠がわかった時点で服用をやめれば大丈夫ですので、それほど心配することはありません。他のトリプタンに関してはまだデータはほとんどなく、エルゴタミン製剤は妊婦には使用できません。また、片頭痛予防薬(塩酸ロメリジン)は妊娠中の安全性が確立していないので勧められません。

出産後は女性ホルモンが急激に減少するため、片頭痛が起こりやすくなったり、育児ストレスや睡眠不足などで誘発されやすくなることがあります。アセトアミノフェンは授乳中でも比較的安全とは言われていますが、片頭痛がどうしても起こってしまう場合にはトリプタン製剤を飲むことができます。
授乳中に服用すると、トリプタン製剤はわずかながら乳汁に分泌されます。トリプタン製剤のうち、スマトリプタンは内服後、8時間後にはほとんど乳汁中に分泌されないというデータがあるので、念のため12時間以上経過してから、搾乳して授乳すれば大丈夫です。他のトリプタン製剤の場合は、投与中の授乳を避けるよう勧告されています。
子育て中は忙しくて受診できず、片頭痛で困っている人は多いようです。ですから頭痛持ちの人は結婚したときや赤ちゃんがほしいと思った時点で、病院を受診して治療法を相談し、自分によく合う薬や薬剤に頼らない対処法を見つけておくとよいと思います。

45〜55歳の更年期には女性ホルモンの分泌が低下して不安定になり、片頭痛が起こりやすくなったり、痛み方が変わる場合があります。ほてり、のぼせ、不眠、イライラ、肩こりなどさまざまな不調が起こり、これらのストレスによって片頭痛が誘発されやすくなります。さらに更年期には肩こりやストレスから緊張型頭痛が起こりやすくなるので、片頭痛と合わさって、連日ダラダラと頭痛が起こる場合があります。ホルモン治療により更年期障害そのものは軽くなっても、逆に片頭痛がひどくなる人もいます。こうした更年期の片頭痛には、頻度が少なければトリプタン製剤と精神安定剤が効果的です。更年期を過ぎ、閉経すると、女性ホルモンは低い状態で安定し、片頭痛は起こりにくくなりますが、緊張型頭痛に移行する場合や、うつ病で頭痛を伴う場合もあるので、やはり注意が必要です。
30〜40代から更年期にかけての女性、特に主婦は健康診断を受ける機会が少ないので、頭痛に高血圧や糖尿病などの他の病気が隠れている場合があります。頸椎症による頭痛なども知られています。更年期障害だからとひとりでガマンしたり、諦めたりせずに、病院を受診して医師に相談してほしいと思います。

健康ならば、誰でも同じように女性ホルモンが分泌され、生理が起こりますが、女性ホルモンに関する感受性が違うため、片頭痛の起こり方には差があります。将来的には遺伝子レベルでその理由が解明されるかもしれませんが、現在では、とにかく、女性ホルモンに影響されやすい片頭痛と上手につき合っていく方法を見つけなくてはいけません。
どうせ治らないのだからと諦めてしまう人も多いようですが、女性ホルモンと片頭痛の関係を知り、トリプタンなどの薬をタイミングよく使い、生活習慣や人によっては低血圧を改善すれば、頭痛の回数はずっと減って快適に過ごせるようになります。ただし、トリプタン製剤の場合、薬を飲むタイミングがとても大切なので、医師と納得いくまで相談して、自分に合った対処法を見つけてほしいと思います。最近は頭痛に関する情報もあふれていますが、そのなかで、本当に自分に必要な正しい情報を選ぶためにも、やはり医師と相談することが必要です。
女性ホルモンも頭痛も、一生つき合っていかなければならないもの。ぜひ自分に合ったよい対処法を見つけて、つらい頭痛から解放され、快適な日常生活を送ってください。
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