
痛みの原因となる血管の拡張や炎症に直接効くトリプタンは、片頭痛の特異的治療薬として高く評価されています。医療機関で投与される皮下注射剤が2000年に発売されて以来、錠剤、点鼻薬とさまざまな剤形が発売されてきましたが、2008年2月、そのラインナップに、自分で注射することができる「イミグランキット皮下注3mg(自己注射剤)」が加わりました。
この自己注射剤は、どのような患者さんに、どのように処方されるのでしょうか。
医師の立場からみた自己注射剤の処方のポイントについて、温知会間中病院院長の間中信也先生にお話を聞いてきました。

自己注射剤は、群発頭痛 の患者さんや、嘔吐したり寝込んでしまった経験がある片頭痛患者さんに有用性が高い薬剤です。
片頭痛で寝込んでしまう場合は、症状が悪化していて、錠剤ではすでに服薬のタイミングが遅い可能性があります。そのような場合には、効果の発現が速い注射剤が最良の対処法となります。片頭痛は動くと余計に悪化しますし、それほどの痛みのなか、注射剤を打つために病院を訪れることは大変難しいため、在宅で注射できる自己注射剤はとても有用です。また、吐き気や嘔吐を伴う患者さんでは、錠剤を吐いてしまったり、たとえ飲むことができても吸収が悪くなっているために十分な効果が得られないことがあります。こうした患者さんにも、胃腸などの消化管を介さずに吸収される自己注射剤が有用です。
自己注射剤は、群発頭痛によい適応になりますが、片頭痛の場合、当院では、まず十分な服薬指導を行った上でトリプタンの錠剤か点鼻薬を処方します。そして、これらの薬をタイミングよく、正しく服用できているにもかかわらず症状が十分に抑えられないことがある、あるいは嘔吐を伴うことがある患者さんに自己注射剤を紹介しています。

自己注射剤を適切に使用し、その効果を十分に得るために、患者さんが知っておくべきポイントがあります。当院では、特に次の点について十分に確認を行っています。
- 頭痛を見分ける
まず重要なことは、ご自身の頭痛を見分けることです。イミグラン自己注射剤の適応は片頭痛と群発頭痛であり、緊張型頭痛には効果がありません。片頭痛の起こり始めと緊張型頭痛の症状はよく似ているため、両者の区別は難しいのですが、おじぎや靴ひもを結ぶような姿勢で頭を深く下げたとき、ズキンズキンと痛みが強まるようなら、片頭痛の可能性が高いと考えられます。患者さんには、簡便な見分け方の1つとして、この「おじぎ試験」を紹介しています。
- 自己注射剤を使うタイミングを知る
患者さんには、群発頭痛や身動きできないほどの片頭痛が起こった場合、できるだけ早めに注射することを心掛けてもらっています。錠剤(あるいは点鼻薬)を使ったけれども改善されなかった場合に自己注射剤を追加する際は、錠剤(あるいは点鼻薬)の服用から2時間以上空けて注射する必要があります。また、追加で使用する場合には、イミグラン同士でないと24時間以内に使用できないので注意が必要です。
- 起こりうる副作用を理解し、気になる症状があったらすぐ医師に相談
まれに胸やのどが締めつけられる感覚、手足のピリピリ感、眠気、めまいなどの副作用が出ることがあります。多くは一過性のもので、過度に心配する必要はありませんが、気になることがあれば、すぐに私たち病院スタッフに相談いただくようにしています。
- 疑問や心配を解決してから使用する
先に説明したように、頭痛を見分けたり、使用するタイミングを患者さん自身が判断する必要があるため、難しいと感じるかもしれません。また「注射」と聞いただけで怖い、と思ってしまう人もいると思います。そうした懸念や不安は放置せず、わからないことは質問してもらい、納得してから使ってもらうようにしています。

自己注射剤は、これまで十分な対処法もなく群発頭痛に苦しんでいた患者さんや、従来のトリプタンで対処しながらも、十分な効果が得られずに嘔吐を繰り返したり、寝込んでしまう経験があった片頭痛患者さんには大きな福音です。
誰にでも処方される剤形ではありませんが、問診で自己注射剤が必要と判断され、きちんと説明を行った上で患者さんが処方を希望したら、使用方法などの自己注射指導を行い、その後、スターターパックと薬剤の処方せんを渡すことになります。
より多くの患者さんの生活の質(QOL)をさらに向上させる新たな選択肢として、自己注射剤が上手に活用されることを期待しています。
片頭痛の特異的治療薬トリプタンの新しい製品、「イミグランキット皮下注3mg(自己注射剤)」。重度の片頭痛を持つ人や群発頭痛の人に速く高い効果を発揮すると言われていますが、自分で注射を打つため、敷居が高いと感じている人もいるのではないでしょうか。
間中先生の解説に続いて、ここでは実際に自己注射剤の処方を受けた患者さん(女性・30代)のお話をもとに、処方までの流れやどのように自己注射の操作説明が行われるかなどについてご紹介します。

高校生のころから頭痛に悩まされており、社会人になってから医療機関を受診し片頭痛と診断されました。
トリプタンの錠剤を使っていましたが、吐き気があるときはお薬を吐き出してしまうことがあり、そういうときには、寝込んでしまうこともありました。また、お薬をのむタイミングには気をつけているはずなのに、効き目が十分ではないと感じることもありました。頭痛も苦痛なのですが、周りの人に迷惑をかけてしまったときに一番つらいなと感じます。

過去に一度、発作中に受診してイミグランの注射を打ってもらったことがあり、とてもよく効いたということと、吐き気でお薬がのめないときや、お薬の効きが悪いときがあることを先生に相談すると、自己注射剤を紹介されました。まず、注射への不安の有無や、使う意思があるかなど、私の考えを尊重してもらえましたし、「あのつらさから解放されるなら」と、自己注射剤の処方をすんなりお願いできました。

自己注射は、注射が2本入ったカートリッジをキャリーケースにセットして使うのですが、針のついていない練習用のカートリッジがあり、それを用いて使い方の説明を受けました。また、使用にあたっての注意点や保管方法、使い終わったカートリッジの処分などについても丁寧に教えてくださり、安心して説明を受けることができました。
始めに自己注射キットの操作手順を詳細に図示した説明書を渡され、内容に目を通したあと、練習用のキットを用いて操作のステップごとにお手本を見せてもらい、自分で同じ動作を反復しました。少し迷うようなところがあると、そのたびに反復し、アドバイスをしてくれました。
また、説明中に気になった点についても聞くことができ、注射を自分で打つことへの不安は解消されていきました。
最後に、各操作ステップが確実に行えたことをチェックシートで確認し、操作説明は終了しました。
[使い方の指導に使われたもの]
- 使用説明書
- キャリーケースとペン型注入器
- 練習用カートリッジパック
帰りに「スターターパック」という箱をいただいたのですが、その中には、ペン型注入器とキャリーケースに加えて、繰り返し練習できるように、自分用の練習用カートリッジや患者向けのガイド、使用説明DVDなどが入っていました(写真)。
「スターターパック」にはお薬は入っていないので、病院で処方せんをもらった後、薬局に行ってお薬のカートリッジを受け取りました。
通常は錠剤で対処して、ひどいときに自己注射を使うということで、今回は錠剤と自己注射剤の2種類を処方していただきました。イミグランの錠剤なら、効果が十分でなかったときに自己注射を追加できるということなので、これからはどんな発作が来ても大丈夫、という心強さがあります。
今回お話をお聞かせいただきました患者さんは、錠剤と自己注射剤をその都度自分の片頭痛の症状に応じて上手に使い分けしていきたいと、笑顔で語ってくれました。
【最新情報】
2008年9月より、こちらのサイトで、自己注射指導を含む頭痛診療を行っている病医院の検索ができるようになりました。
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