最近では、頭痛に関する本がたくさん出版され、各地でいろんな勉強会、市民公開講座などが開催されるようになりました。これまでは「たかが頭痛くらいで・・」などと思われてきた慢性頭痛に対する社会の認識も変わりつつあります。実際の治療についてはどうなのでしょうか。間中病院院長 間中信也先生にお話を聞いてきました。
私は35年ほど外来をやっていますが、頭痛治療の中で一番大きく進歩したのは、片頭痛の治療でしょう。きっかけは、片頭痛の特効薬であるトリプタンが2001年に発売されたことです。 それまで日本では、CTやMRIの技術が高く、くも膜下出血や脳腫瘍といった命に関わる「悪玉頭痛」の鑑別診断は非常に優れていました。しかし、一方で片頭痛など命には直接関わってこない慢性的な「善玉頭痛」は軽んじられる傾向にあったのです。 実際に、以前は片頭痛に対するよい治療方法もなく、せいぜい鎮痛薬を処方する程度でした。片頭痛に効く唯一の薬と言われていたエルゴタミン製剤も早期に服用しないと効果がなく、吐き気をもよおすなどの副作用がありました。医師の側でも患者さんにしてあげられることがほとんどなかったわけです。 そのため、頭痛で病医院にかかっても「悪玉頭痛」でないとわかると、「頭痛で死ぬ人はいない」とか「なんで頭痛くらいで病院へ来るの?」などと言われ、きちんと診てくれる医師も多くはなかったのではないでしょうか。
これまでは悪玉頭痛との鑑別診断が中心でしたが、片頭痛の特効薬であるトリプタンが発売されたことで、片頭痛と緊張型頭痛の鑑別診断が必要になりました。そのため医師が慢性頭痛に対して研究に熱心になりました。慢性頭痛では、自分の頭痛が片頭痛なのか緊張型頭痛かわからない人も少なくありません。多くの患者さんを見ていると、片頭痛と緊張型頭痛の両方を持っている人が多いこともわかってきました。それでますます鑑別診断が大切になるわけです。また、慢性頭痛の痛みがいかに患者さんの生活をおびやかすものであるかがわかってきました。頭痛の治療が、患者さんのQOL(クオリティ オブ ライフ)を改善することであるというように医師の側の認識も変化してきています。 一方、片頭痛の患者さんにしてみれば、特効薬であるトリプタンが出たことで、これまで我慢するしかなかった片頭痛の痛みから解放され、生涯で失う時間(ロスタイム)が大幅に減りました。片頭痛持ちの人は、頭痛持ちでない人に比べると健康寿命(健康でいられる寿命)が2年縮まると言われています。人生は長いとはいえ、2年もの時間をただ痛みを我慢するために費やすのは非常にもったいない話です。
鎮痛薬は、緊張型頭痛にも片頭痛にも使われます。炎症を抑え、痛みを和らげる働きがあります。市販の頭痛薬は、すべて鎮痛薬で、他には歯痛や解熱のためにも使われますね。 トリプタンやエルゴタミン製剤は、片頭痛の原因である頭部の血管に直接作用し、血管の過度の拡がりを抑える薬です。ところがエルゴタミン製剤には、服用のタイミングや副作用などの問題がありました。トリプタンは痛みの極期にも効果がある画期的な薬です。ただし、最近は頭痛がひどくなると吐き気が強くなってトリプタンが効く前に吐いてしまうことを考えて、トリプタンでも早期に飲むことをすすめています。なお、トリプタンは吐き気も止めます。また、鎮痛薬やエルゴタミン製剤を服用しすぎると、例えば月10回以上服用するようになると、逆に頭痛がこじれ薬物乱用頭痛を引き起こすことがあります。そのほか、鎮痛薬は胃をいためやすいのですが、トリプタンはその心配もほとんどありません。 トリプタンが発売されたころは皮下注射のみでしたが、ほどなく錠剤が発売になり、さらに最近では点鼻薬も発売されました。点鼻薬は、「せっかくの特効薬でも吐き気が強くて吐いてしまい、服用できない」という悩みを改善してくれました。また、点鼻薬は頭痛に対する効果も早く現れます。
同じ片頭痛であっても一人ひとり違うものです。それぞれに合った治療があり、薬などの飲み方、飲むタイミングなど自分なりに会得していくものです。 市販の鎮痛薬がなかなか効かなくて悩んでいる人は、ぜひ、一度受診してほしいですね。また、かつて病院へ行って医師にあまりよい対応をされなかった人も、がっかりせずにもう一度通院してほしいと思います。最近では、トリプタンといういい薬もありますし、医師も片頭痛はQOLに影響する疾患であるという認識を強めています。 それに患者さんがどんどん病医院へ行くことで、患者と医師双方向の勉強にもなりますし、お互い成長していくことができます。 ただし、やみくもに病医院にかかるのでなく、インターネットや口コミなどで頭痛に強い先生の情報を集めてから出かけることです。あまり遠くに行く必要はありません。半径20km以内にきっといい先生が見つかります。かかりつけの先生に紹介してもらってもいいでしょう。 頭痛をただ我慢するだけでは、人生のロスタイムが増えるばかりです。慢性頭痛に悩んでいる人は、一度は病医院を受診してみてください。
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